クリスマスキャロルは樹海で流れた〜完全版〜

・主な登場人物一覧

私(くまそ)…大学四年。内定及び彼女なし。高い血圧と炭水化物への愛には定評がある若干アル中、ポップがヒップな23才。

三浪…大学四年。内定及び彼女なし。三年間の浪人期間を経て大学に合格したものの、その人生における真実味の欠片もない姿勢が大爆発し、結果人生設計も大爆発した悲しき浪人界の巨匠。明るく声が大きい。25才。

斉藤…大学四年。内定なし彼女アリ。法学部に在籍し受験時代は慶應法にも受かった超絶インテリ。しかし理性が食欲に勝てない性分で、彼と食事をすると自らのメシを食べつつもこちらのメシを食ういるように見つめてくる。大変意地汚い男である。22才。

鈴木…大学四年。内定アリ彼女ナシ。空気の読めないアメリカ帰りのブタ野郎。唯一の理系で宇宙関連のトンでもない所に内定を持っているが、如何せん空気が読めず顔面も気持ち悪いため女に縁がない。22才

横杉…大学三年。彼女ナシ。非常に理知的で現実主義の理論派。ただしケツの締りが非常に悪く、犬の散歩中に犬より先にクソを漏らすという正に畜生にも劣る一面がある。22才。

クソ虫A・B…大学一年。彼女両者なし。人権のないただのクソ虫である。



出発編!



「クリスマスは自殺の名所、樹海で鍋をやろう!」

この頭の悪そうな提案に暇を持て余した七名の男達がどこからともなくズリズリと集まってきた。

男達は同じ大学であることと、目に覇気がない、クソを我慢する時以外の努力は極力しない、という点で共通項が見られた。

事の次第を説明するとクリスマスに男女の営みが出来ないのは仕方がないが、まあ家で一人酒を飲んでその後21時間程度ぶっ通しで寝るというのもあんまりではないか、私らも若いですしね、という事で「樹海いってみっか」っという話が持ち上がったのである。

参加者に関しては前々から言い合わせていたものの、出発を24にするか25にするか決めかねていたところ、誰も何も言っていないのに三年の横杉から23日に突然「樹海行きますよ。メンバーは…」というメールが送られてきた事に端を発する。

23日と言えば天皇誕生日。右よりの気がある横杉はその日、大学のテニスサークルがよく使う大型居酒屋で「軍歌を歌い、その辺の軟弱サークルを叩き上げる夕べ」というオドロオドロシイ飲み会に参加したそうで気分が昂揚していたのであろう。

25日の午後7時にとあるサークル部室に集合ということになっていたのだが、私が7時ジャストに到着したときには一年生のクソ虫A以外誰もおらず、あたりを見渡すと部室に飾ってある毛沢東の写真が私にニッと笑いかけるだけであった。

クリスマスに毛沢東首席からニッと微笑みかけられてもとてもじゃないが共産党宣言を叫ぶ気にもなれず、私は憮然とした表情でそこら辺に転がっているクソ虫Aを眺め「ほかの奴らはどうしたんだ」と聞いた。

クソ虫Aはその後何かを言っているようであったが、どだいクソ虫の言うことなど分かるはずもなく私は舌打ちをして、先ほどからメールの着信を私に伝えんと健気に震える携帯電話を手に取った。

メールは6件来ていた。そのほとんどが車の運転のみに呼ばれた鈴木という男からのメールで「今日は樹海に行くが明日俺は女とデートに行くぜ!」などの世迷い事が書いてあった。

鈴木は何も喋らず運転だけしておればよいのだ、私は再度舌打ちし、同期で三回の浪人を経て大学に入った三浪という男に電話をかけようとしたのだが、私が発信ボタンを押す前にクソ虫Bが100円もしないであろうカップ焼きそばを片手に部室に飛び込んできた。

クソ虫Bは遅れた事に対する言い訳のようなものを口から発していたが、やはりクソ虫の言うことは全く分からないので私はそれを無視し三浪に電話をかけると三浪はあと15分ほどでつくという事だった。

結局七名の男が集まったのは午後8時過ぎ。その間に一名の欠員が出たので責任を感じた横杉が、クソ虫Cを恫喝しながら参加を強制していたのだが、クソ虫Cは曖昧な返事をしたまま逃げ切り、結果として食い意地だけが賞賛される斉藤という男に電話をかけることとなった。斉藤は彼女もちという事もあり最初は渋っていたが「鍋が食えるぞ」という一声をかけると「ああ、いくよ」と二つ返事で快諾。

女より胃袋をとる、正に男の鏡である。


そんなこんなでその後レンタカーを借りた我々は霊峰富士にそびえる樹海へと出発することとなったのであった。



到着編!



レンタカーに乗り込んだ我々は環七通りをひた走り、クリスマスに浮かれた男女を眺めては「あの女はダメだ。尻が小さいから子供は逆子だ」等の高度な罵倒を繰り返しつつ首都高速にブっ込んだ。
首都高速に入る前クソ虫Bが「車酔いしました」と生意気な事を言って喋らなくなったと思いきや、首都高速に入るとテンションが上がり「我が人生とアナル拡張」という大変不快な話をし始めた。クソ虫Bの話は不快ではあるがそこそこ面白かったのだが、人生において初めて他人からの注目を浴び錯乱したクソ虫Bは「っで結構拡張してきたからウズラの卵を茹でて…」などとトンでもない事を話しだしはじめた。これはイカンと頭をはたくと、彼はてっぺんを叩かれた目覚まし時計のように静かになる。
車内はおおむね雰囲気がよかった。後輩の悪口を言ったり先輩の悪口を言ったり、まだ足りないのでよく分からない人の悪口を言ったりでグエグエと猥雑な笑いで溢れていた。
私もこの空気ならイケル!っと思い伝家の宝刀「羊のモノマネ」をやったのだがこれは驚くほどに全くウケなかった。腹が立ったのでヤツ当たりに斉藤の悪口を言ったら斉藤以外が皆笑いまあトントンだったと思う。

車内ではスリラーが流されていた。これは三浪が年末にやっていた映画「This is it」に大変感動したらしく、しきりに「いやあ、マイケルジャクソンって子供を集めて犯す人って認識だったけど、凄い人なんだねえ!」との軽薄な発言していたためである。
そのスリラーに興奮したエセバンドマンのクソ虫Aは誰も知らないような洋楽ばかりを流し始める。クソ虫Bもウズラの卵をケツに入れる割には洒落た一面があり、クソ虫Aと共に訳の分らぬ洋楽を流しまくった。
頭にきたのは上級生である。我々は洋楽なんか分からないのだ。いや分かっていてもこの場でかけるべきではないという事を、空気の読めない鈴木以外は皆感じとっていた。
私は「広瀬香美のプロミスを流しなさい」っと的確な指示を出すのだがクソ虫どもは聞く耳をもたない。先ほどまでは他人の脱糞話と被差別部落の話ばかりしていた横杉も、上級生たちの怒りを汲んでか「次にかける曲は空気読めよ」と持ち前の冷血無比な声で言うのだがクソ虫どもはまるで無視である。鈴木に至っては「クラッシク聞こうよ!」っと誰も幸せになれない決断をクソ虫に迫っていた。

クソ虫に文化などいらないのだ」
我々はそう吐き捨て、車は樹海へ向けてひた走るのであった。

少し富士の樹海について説明するが樹海と大層な名前がついているくせには面積はそう広くない。富士のふもとに広がる森林地帯が樹海と呼ばれている訳で、面積的には30万?平方メートル、これは山手線で囲まれた面積くらいなもんである。
また自殺の名所で有名な樹海だが遊歩道というケモノ道のようなものがあり、これを通っている限りは迷う事はないし、樹海の中にはキャンプ場や公園があるのでそこまで恐ろしい場所ではない。方位磁石が狂うという噂もデマで場所によっては携帯電話の電波も結構たつ。
しかし遊歩道といってもかろうじて他の場所と区別がつくだけでかなり分かりにくく、一歩遊歩道から出てしまうと迷いやすく迷うとかなりタチが悪い。また火山活動の影響でところどころに大きな穴が空いていたりで危険である。
そしてなんといって抜群に怖いのは雰囲気だ。自殺の名所との刷り込み意識から毎年自殺者が後を絶たず、未だ発見されていない死体がかなりの数あると推定されている。これはやはり気持ちが良いのもではない。

高速を降り、一般道を樹海まで進む我々は途中ローソンに寄った。
マツモトキヨシをデパートと呼ぶ山梨県で、ローソンといえば流行の発信地、原宿のようなものである。よって山梨県のローソンには若者が溢れ、そのあり余るエネルギーを唐揚げくん等にぶつけて行くのが普通であり、本日ももれなく頭をとがらせたアンちゃん達が数人煙草を吸いながらたむろしていた。
死体も怖いが深夜のコンビニのアンちゃんも怖いもんである。
こういう時によく考えるのが「もしイチャモンをつけられたらどうするか?」という事だ。
経験則的に言って初めて出会う男の集団同士というのはどうも自然とお互いを威嚇し合う傾向がある。
だから他の集団と対峙したアンちゃんは急いで煙草に火をつけ「俺は煙草を吸うぞ!悪い奴だぞ!」っという事をアピールしたり、「マジスロット打ちてー」などと、今ここで言う必要の全くない事を言ったりしたのである。
っという事を考えつつ私は「ちょっとチンコしごきたいから帰るわ」っという恐ろしく挑発的な発言をワザと向こうに聞こえるように言ったりしていた。
我々は男七名だが俗に言う体格のイイと言われるのが私と三浪くらいなモノ。しかし三浪は演劇部、私は新聞部出身であるため喧嘩をして勝てる自信はない。しかも向こうはホウトウ顔をした屈強な甲斐男児達である。シティ派で浅草蕎麦顔の我々が根本的に勝てるはずはない。
まあこういった事は大抵何も起こらないモノで、我々も思い思いの品を買い、何事もなかったように車にのって樹海入口の風穴という駐車場に車を止めた。
すると、先ほどのアンちゃんとは違うアンちゃんがこっちに向けて歩いてくるではないか。
周囲は街燈こそあるものの車の通りはほとんどなく、駅も近くにないし、何より深夜である。どうやってここに来たんだろうかと疑いたくなる。そしてこんな場所に深夜を超えた時間に一人。
もしかするともしかである。
まあでも関係なかろうと降りる準備をしたのだが、アンちゃんはどんどんこっちに近づいてくる。
「えっ?」
我々の顔に緊張が走る。
横杉は樹海についての情報をかなり胡散臭い本から入手しており、それによると「樹海に来る人間は3タイプ。?は自殺しに来る人?は面白がってくるヤツ?は?を殺しに来るやつだ!」っと書いてあったらしい。
車内で彼はそれをしきりに言っていたのだが、あまりの真実味のない内容に周りはほとほと呆れ、その話になると三浪などは「先輩の家で中トロをアホみたいに食った話」という話を始め出し、食い意地しか取り柄のない斉藤はその話を聞きながら「何枚や!何枚食ったんや!」っと悲鳴に近い尋問を繰り返していたものだ。
明らかに我々に用があるという意志をもってこちらに近づいてくる男。我々の脳裏に横杉の話がよぎる。
そしてついに我々の車の窓に顔を押し付け、コンコンとドアを叩いたのであった。



完結編!


男は青白い顔でクソ虫Aが開けた窓からニュっと顔を出した。
男の身なりはわりかし綺麗で、中学一年生の時に買った穴だらけのジャージをつっかけている私よりも確実にマトモに見えた。
しかしその後男は含み笑いを3分ほどし、動揺する我々に「見てんじゃねえ!」っと恫喝。股間からマシンガンを取り出しぶっ放した…とかだったらそこそこ面白く、日本においても社会の不良債権たる我々が消滅するのは喜ばしい事ではあるのだが、男はボソボソと聞き取りにくい声で
「東京まで乗せてってくれませんか?」
っと頼んできたのであった。要はヒッチハイカーだ。
我々としてもこの暗く人通りもほとんどない場所にお兄さんを放っておくのも心苦しいとは思ったのであるが、我々は今来たばかりである。
多少の後ろめたさはあったがお兄さんに「今来たばかりだから」っと言うと、お兄さんは結構簡単にあきらめてくれた。
心根は優しいクソ虫達は「可哀想ですよね、お鍋一緒に誘いましょうか?」と言っていたのだが私としては「あのお兄さん自殺が怖くなって辞めたひとなんじゃあ…」っとヨカラヌ妄想をしていたので、出来れば乗せる事は避けたかった。
なんせよく見ると大きなリュックをしょってそれなりに防寒着を着ているのだ。冬山に来る準備をしていたと考えても不思議ではない。それにヒッチハイカーだとしても、こんな辺鄙な所で降ろされるモノなのだろうか?あたりは真っ暗だし、高度も高いので相当冷え込んでいる。
そんなこんなを考えながらしばらくお兄さんを眺めていると、お兄さんは何とかヒッチハイクを成功させたようで私としても安心したような不安なような、ヘンテコな気持ちになった。

さて樹海である。風穴から少し歩いたところに遊歩道の入口があり、我々はズリズリと中に入っていった。するとあろうことか私と三浪以外の奴らが「あまり中に入らずすぐ鍋にしましょう」「いっそ駐車場で鍋をしましょう」「帰りましょう」「秋田の母に電報をうちたい」等々の情けない発言をし始めたのだ。
これはイケナイ。大体鍋をするだけならどこでも出来るのだ。わざわざ樹海まで来て鍋をするのだから奥深くでやらずにどうするのだ!
私と三浪はそういった魑魅魍魎どもの言葉を一切無視し、たまにクソ虫どもに対し罵倒と膝蹴りをあびせながらどんどん樹海へと歩を進める。あたりはどんどん暗くなり、何となく見えていた道路の街燈もたまにちらっと見える程度になってくる。確かにこれは男7人でも怖い。

気温はマイナス3℃
周囲には明かり全くなく、否が応でも五感が鋭くなるので枯葉の擦り合わさる音や足音が人の会話のように聞こえ何だか不気味である。
後方で呻くヒヨリ野郎どもの愚痴がピークに達し、また私もあまり深く入ると迷うかも・・・っと怖かったので道路の街燈が全く見えなくなったあたりで鍋をする事にした。
あたりは月明かりのみ。試しに全員の懐中電灯を消し口を閉じると、目を開けている閉じているのか分からないほどの暗闇がそこにはあった。
何となく無言になりながら鍋の準備を進める。

鍋は私が業務用スーパーで感情の高ぶりに任せてカゴに突っ込んだ食材を鍋に入れ、ひたすらキムチ鍋の素で煮込むというものだ。鍋の〆には横杉が3玉100円と言う事でこれまた大興奮し買ったウドン玉計18玉がブっ込まれる算段になっている。

鳥肉2?・大根1本・白菜半玉・生ニンニク大量・モヤシ4袋がまず投入される。余談ではあるがなんとこれだけ買っても業務用スーパーでは1200円である。この値段に興奮した三浪は「日当たりとかどうでもいいから、不動産の決め手は業務用スーパーが近くにあるかだね」っとホクホク顔で語っていた。
ただこれだけの食材を煮るのだ。カセットコンロしか用意していないのでかなりの時間がかかる。
私は車中で何かと困るだろうと、対人コミュニュケーション能力に著しい障害をもっているクソ虫どもに対し事前にメールで「怖いは話を3つ以上もってこい」とお達しをだしていたので、いい機会だと懐中電灯を一本だけつけ、それを回しながら7人で怖い話をし始める事にした。
まずはじめにクソ虫どもが喋り出したのだが、これが全くもって怖くない。クソ虫Bはモロに2ちゃんねるの怖いコピペを長ったらしく語り、クソ虫Aは臨場感を出そうとそれっぽく語るのであるけれどかえってマヌケなだけであった。
全くクソ虫の癖にこれは無礼である。
しょうがないここは私が!、六時間のネットサーフィンの末見つけ出した珠玉の怖い未解決事件の話を語ったがあろうことか私以外誰も怖がらなかった。その後あの喋る言葉全てがクダラなく、空気が読めず、おまけにチンコも小さそうな鈴木の話が怖くウケもよかったので、私は苛立ち、大人しく鍋を見守る事に専念し始めた。

怖い話は1時間程度続き、腹をすかせた三浪が生ニンニクを齧り出したとこらへんで、ようやく鍋が良い塩梅になってきた。
鍋は案外うまい具合に出来ていた。七人でその鍋をがっつく。
途中三浪が誰の承諾を得ることなく、ソバつゆを入れたりニンニクを入れたり醤油を入れたりしたので最終的に味はかなり不思議なモノになったが、それでも先ほどの材料プラスウドン玉18はストンと我々の胃袋に収まったのであった。

さて問題はここからである。満腹になり普段からなんに対しても無気力な我々の神経は弛緩し多くはまた「帰ろう」と主張し始めたのだ。
当初の予定ではここから更に3?ほど樹海内部に入り、野鳥の森公園という場所を目指そうとしていたのだ。
鈴木に至っては「今帰らないと運転しないよ」などと小生意気な事を言い、クソ虫どもも若いくせに度胸がないのか元気がないのか「もういいじゃないですか」っと及び腰である。

そんな中一人の男は違う反応を見せていた。三浪である。彼はは何も言わずにずんずんと中に入っていくのだ。

それを見てポカンとしていた我々の中にある一つの想像が膨らむ。

三浪、25才。このメンバーで唯一の衆議院被選挙権ホルダーである彼は未だに進路が定まらず、男女関係においても彼女がいた事がないどころか今現在「童貞」である。それが関係せいているのかは知らないが以前は「松下政経塾のパンフを貰ってきたぞ!」とまるで天下を取ったが如く吹聴していたものの、最近はやたら酒を飲むようになり「NSCのパンフレット貰ってきたんだぁ」っと虚ろな目でよく話していたものだ。

「実のところ三浪は自殺をしにここに来ていたのではないか」

そんな思いが我々の中に生まれるのも自然の成り行きではないだろうか。
動揺する我々をよそに三浪は更に森深くに入っていく。そしてハラリとこちらを向いたのだ。

いよいよ辞世の句でも述べるのかと涙ぐんで彼を見つめると、彼は半笑いで。
「じゃあ、俺とくまそは奥までいくから!皆は待っててよ!」
っと明るく言い放った。

何だかんだで一人が行くのならと渋々全ての人間がそれに従い、我々は三?の山道をグングン歩いていくのであった。

野鳥の森公園は山道を通るとあってか到着まで40分程度かかったが非常に広く、山からいきなり開けた形になっているので何とも感動的な光景だった。
空気が澄んでいるので星が近い。刺すような冷たい空気が歩いて火照った体には心地が良かった。

しばらく全員で横になり色々と話をする。こうなると何だか感傷的な気分になるものである。
鈴木は今年で大学を卒業し宇宙に関する仕事をすることとなる。こんな風にバカな遊びが出来るのもこれが最後だ。

思えば他の奴らは半ば彼女などは諦めているのだが彼は違った。本気でクリスマスと言うイベントを女性とすごしたい、彼は切にそう願っていたのだ。そのためにずっと女性に叶わぬアプローチをしかけるのだが、結果はこの有様。
「大学生活で一度は男女交際がしたかった・・・」
そう涙ぐみながら語る鈴木。何とも言えない気分になる。

「モテナイ」というのは何とも悲しいモノだ。異性に相手にされないと言う事が嬉しいハズはない。モテル・モテナイは顔じゃない、心の持ちようだとか努力が足りないからだとか色々な事を言う人がいるが、モテナイものはモテナイのだ。こればっかりは仕方がない。

う〜むと星を見ながらそんな事を考えていると三浪が私に向けて何か言葉を発そうとしている。
そうか、お前も苦労が多いよなとやさしい気持ちになり彼の愚痴でも聞いてやろうと彼の方に顔を向けると
「ねえねえ、サカナくんになれるんならお前なる?」

クリスマスはサカナくんで幕を閉じたのだった。