クリスマスキャロルは樹海で流れた〜出発編〜

「クリスマスは自殺の名所、樹海で鍋をやろう!」

この頭の悪そうな提案に暇を持て余した七名の男達がどこからともなくズリズリと集まってきた。

男達は同じ大学であることと、目に覇気がない、クソを我慢する時以外の努力は極力しない、という点で共通項が見られた。

事の次第を説明するとクリスマスに男女の営みが出来ないのは仕方がないが、まあ家で一人酒を飲んでその後21時間程度ぶっ通しで寝るというのもあんまりではないか、私らも若いですしね、という事で「樹海いってみっか」っという話が持ち上がったのである。

参加者に関しては前々から言い合わせていたものの、出発を24にするか25にするか決めかねていたところ、誰も何も言っていないのに三年の横杉から23日に突然「樹海行きますよ。メンバーは…」というメールが送られてきた事に端を発する。

23日と言えば天皇誕生日。右よりの気がある横杉はその日、大学のテニスサークルがよく使う大型居酒屋で「軍歌を歌い、その辺の軟弱サークルを叩き上げる夕べ」というオドロオドロシイ飲み会に参加したそうで気分が昂揚していたのであろう。

25日の午後7時にとあるサークル部室に集合ということになっていたのだが、私が7時ジャストに到着したときには一年生のクソ虫A以外誰もおらず、あたりを見渡すと部室に飾ってある毛沢東の写真が私にニッと笑いかけるだけであった。

クリスマスに毛沢東首席からニッと微笑みかけられてもとてもじゃないが共産党宣言を叫ぶ気にもなれず、私は憮然とした表情でそこら辺に転がっているクソ虫Aを眺め「ほかの奴らはどうしたんだ」と聞いた。

クソ虫Aはその後何かを言っているようであったが、どだいクソ虫の言うことなど分かるはずもなく私は舌打ちをして、先ほどからメールの着信を私に伝えんと健気に震える携帯電話を手に取った。

メールは6件来ていた。そのほとんどが車の運転のみに呼ばれた鈴木という男からのメールで「今日は樹海に行くが明日俺は女とデートに行くぜ!」などの世迷い事が書いてあった。

鈴木は何も喋らず運転だけしておればよいのだ、私は再度舌打ちし、同期で三回の浪人を経て大学に入った三浪という男に電話をかけようとしたのだが、私が発信ボタンを押す前にクソ虫Bが100円もしないであろうカップ焼きそばを片手に部室に飛び込んできた。

クソ虫Bは遅れた事に対する言い訳のようなものを口から発していたが、やはりクソ虫の言うことは全く分からないので私はそれを無視し三浪に電話をかけると三浪はあと15分ほどでつくという事だった。

結局七名の男が集まったのは午後8時過ぎ。その間に一名の欠員が出たので責任を感じた横杉が、クソ虫Cを恫喝しながら参加を強制していたのだが、クソ虫Cは曖昧な返事をしたまま逃げ切り、結果として食い意地だけが賞賛される斉藤という男に電話をかけることとなった。斉藤は彼女もちという事もあり最初は渋っていたが「鍋が食えるぞ」という一声をかけると「ああ、いくよ」と二つ返事で快諾。

女より胃袋をとる、正に男の鏡である。


そんなこんなでその後レンタカーを借りた我々は霊峰富士にそびえる樹海へと出発することとなったのであった。




・主な登場人物一覧

私(くまそ)…大学四年。内定及び彼女なし。高い血圧と炭水化物への愛には定評がある若干アル中、ポップがヒップな23才。

三浪…大学四年。内定及び彼女なし。三年間の浪人期間を経て大学に合格したものの、その人生における真実味の欠片もない姿勢が大爆発し、結果人生設計も大爆発した悲しき浪人界の巨匠。明るく声が大きい。25才。

斉藤…大学四年。内定なし彼女アリ。法学部に在籍し受験時代は慶應法にも受かった超絶インテリ。しかし理性が食欲に勝てない性分で、彼と食事をすると自らのメシを食べつつもこちらのメシを食ういるように見つめてくる。大変意地汚い男である。22才。

鈴木…大学四年。内定アリ彼女ナシ。空気の読めないアメリカ帰りのブタ野郎。唯一の理系で宇宙関連のトンでもない所に内定を持っているが、如何せん空気が読めず顔面も気持ち悪いため女に縁がない。22才

横杉…大学三年。彼女ナシ。非常に理知的で現実主義の理論派。ただしケツの締りが非常に悪く、犬の散歩中に犬より先にクソを漏らすという正に畜生にも劣る一面がある。22才。

クソ虫A・B…大学一年。彼女両者なし。人権のないただのクソ虫である。