くまその入院体験

「鍋二郎」という、ラーメン二郎を鍋に入れてくれる猥褻極まりないサービスがこの世にはあります。

ラーメン二郎を食べた事のない人は、一風堂の豚骨ラーメンを思い浮かべて下さい。その5倍くらい「強い」ラーメンがラーメン二郎です。とにかく意味が分からないかもしれませんが「強さ」しか感じない気骨溢れるラーメンです。

そんな「強い」ラーメンを鍋に入れてくれ、皆でワシワシ食べるという鍋二郎に心を惹かれた大学一年生時の私は、二郎発祥の地であり鍋二郎をやっている三田で是非鍋二郎を胃袋に差し込みたい!っと強く思うようになりました。

女や金やギャンブルに情熱を注ぐことなく、鍋に入ったラーメンに情熱を注ぐというのが何ともイタイケですねえ。エライエライ。


けれども鍋二郎は三田にキャンパスを構える慶應義塾大学の体育局にしかそのサービスをしていないらしいのです。

なのでイタヅラに自信だけはあった受験生時代、周囲からのヤメロ!無茶だ!との制止を振り切り慶應法学部を受け、あまりの試験の難しさに一人キャンパスでそこら辺の木を蹴飛ばしていた私にとって鍋二郎の実現は難しい話だったんですよ。

だけど持つべきものはやっぱり友人。「あの人は六法には興味がないが、メシを六杯食べる事には誰よりも興味がある」と噂される法学部の斎藤君が慶應の知り合いに話をつけ、鍋二郎をやれる事になったのです。

鍋二郎当日。三田に到着した我々は文学青年くずれな感じの慶應ボーイに連れられ鍋二郎を囲みました。お皿がないので紙コップと割り箸でラーメンを食うというかなりの「やる気スタイル」で対峙する鍋二郎は非常に美味しく、またボリュームも申し分ないものでした。

しかし鍋二郎を実現させ満腹感と満足感と達成感の「三感」を獲得した私だったのですが、ラーメンを食べた直後からどうも体の調子がオカシイんですよ。

強烈な腹痛と痛みからくる吐き気が続き、こんな時にはこれだ!っと試した独自の民間療法、「ひたすら飲酒」もまるで効果が出ません。

最初はほっときゃ治るだろとタカをくくっていましたが、一向に痛みが引かず胃酸しか出ないゲロを吐いては虚空を見つめ「牛は四つ胃があるから、俺が牛なら吐く前に三つクッション噛ませるのにな」と訳の分からない事をつぶやいていました。

鍋二郎→腹痛から10日後。初めての「合コン」なるものを体験し、これまた初めて女性からアドレスを聞かれるという有頂天イベントを経験したのですが体の方はかなりのバットテンション。その日の夜あまりの腹痛にベットでノタウチまわり、これはちょっと変だなと思った私は翌朝自転車に乗って近くの総合病院に駆け込みました。

かなりのイケメン内科医に「ラーメンを食べた後から腹が痛いんです」と結構情けない事を言いながらお腹をプルンと出したところ「なんでここまでほっといたの!盲腸だよ盲腸!分かる?盲腸?入院だよ即行で!」との診断。なんてこった。

その後一人暮らしなのでまたキコキコと自転車をこぎ、最低限の着がえを取りに行きました。ホントに一人暮らしの病気は厄介ですねえ。

でも確かに盲腸は痛いですけど、鎮痛剤をうてば元気いっぱいです。同じ病室に病弱な生娘の一人や二人いれば見ているだけで暇もまぎれるでしょうが、どういう訳か寝たきりのジジイとババアしかおらず、私以外トイレで用をたす事が出来ない模様。オムツ交換タイムが訪れると病室には独特の臭気がたちこめ、何だか虚しい気持ちになります。

それに腹が減っても何も食べちゃいけないんですよ、盲腸って。だから腹はへるわ臭いわ看護婦さんに「タバコって吸っていいんですか?」と聞いたら睨まれるわでもう散々です。煙草も買いに行けないんでブカブカ吸う事も出来ません。

そんな時私が入院した事を聞きつけ、東京にいる伯父さんと叔母さんが私を見舞いに来てくれたんですよ。

叔母さんに窮状を訴えると「よし!マイルドセブンとパンだね!」っと非常にイキのいいお言葉。

伯父さんにラーメンを食べたら盲腸になったと話すと「お前はラーメンで盲腸か。俺はタコ焼きで盲腸になったぞ!」っと訳の分からないお言葉。

従姉妹のちびっ子三姉妹にお兄さんが誰か分かるかい?っと聞くと「知らない」っとの清々しいお言葉。

まあしかし忙しい中来てくれるのはありがたい事なんですけどね。別れ際伯父さん達は「これから俺達焼き肉食いに行くからwwww」っと憎々しく肉肉しい発言をして豪快に帰って行きました。



初めての入院経験で思った事ですが入院してると同じものを病人達と食べる訳ですよ。私なんかはインチキしてパンを食べていましたが、基本的には同じものを食べる。

すると面白い事に食べるものが同じだと、出すものも一緒になってくるんですよ。いやね、別にジジイとババアの排泄物をわざわざ確認してる訳じゃないですよ。そんなの書いてるだけでもおぞましい。

なんというかオムツ交換タイムで匂ってくる臭いと同じ臭いが我がブツからもするんですよ。


これは何とも虚しい発見でしたねえ。


その後若干スリムになった私は、ひっそりと退院し、また手あたり次第色んなものを口にするようになるのでした。



まあ結局何が言いたいかと言うと、「鍋二郎は腸にまで効く!」っと言う事ですね。

チャンチャン♪