文化祭とBBQ

関西に住んでいる初野くんという大学院修士1年の友人が、私には全く分からないアカデミックな展覧会があったとかで東京にやってきて私の家に泊って行きました。

そんでもって少し暇があるそうなので、東京にいる共通の友人何人かと酒を飲んだんですね。


酔いがまわり、昔話に華が咲くころになると今まで全く忘れていた高校時代の話が出てきて何とも懐かしく、色々と忘れてるもんだなあと我がバカ頭に関心していたのですが、その中で全く忘れていた文化祭事件というものが出てきました。



私は体育祭というのも嫌いですが、文化祭というのも親の敵のように憎んでいまして、今でこそ大学生になり別に参加してもしなくても自由になったんで気にも留めませんが、高校生の時なんか朝行くのが非常に憂鬱でした。


何だか知らないけれどもクラスの中心のアップライトここにあり!って人たちとその取り巻きばかりが調子に乗り、私のような学校に暇つぶしに来ているような人間達を椅子に磔にして、彼らのステージを強制的に見せつけられるって図式は拷問に近いものがあると感じていました。

それでも休まなかったってのが、私の真面目な所なんでしょうけど。


まあ私の周りにいる人間達も同様にそんな感じで、とにかく心底迷惑そうに文化祭という日を迎えていたんですよ。


しかし三年生になってこれはイカン!っと誰だったか、多分消火器の安全ピンをそこらじゅうから抜きまくってストラップにしていた川野くんあたりだったと思いますが、とにかく文化祭を抜け出してみようじゃないか!って事になったんですよ。


そうなると高校三年生なのに進路についてのビジョンが一切ない奴らが意味もなく盛り上がり、そうだ!やってやろう!って事になりました。


けれど文化祭を抜け出して何をするのか?そんな問題が出てきてしまい、我々がウンウンと悩んでいると冒頭にでてきた初野くんという、英語の授業の時にスペイン語の教科書を熟読する男が「河原でビビーキュー!」っと焦点の定まらない目で、軽く口から泡を吹き出しなんぞしながら叫んだんですよ。


そうか、文化祭をサボってBBQか・・・男達の目にぎらぎらとしたものが光ります。


私達は何を隠そう無知識暴走型のアウトドアマンで、なんでこの場所で、そしてこの時間に「鍋」をする必要があるのか!っと叫びたくなるような状況で鍋をしたり、なんで今、そしてこんな土砂降りで橋もあるのに1000円のビニールボートで「川渡し」をする必要かあるのか!っと叫びたくなる状況でビニールボートを川に浮かべ通報されたりしていたのです。


そんな男達が燃えたぎるのも、それは必然だと言えましょう。


因みに初野君は現役で誰もがひれ伏す超有名国立大学に受かり、現在はその大学院に進み、ドクターに進むべく毎日朝8時から夜の11時まで研究室にこもっていたりします。


男達は文化祭の日を静かに待ち、集合時間と場所だけを決め、作戦と呼べるものも何一つ用意せずBBQ用の網をどっかから調達するだけで当日を迎えたのでした。


文化祭当日。


クラスから体育館への移動中、まず私と同じクラスの刈谷君が外に飛び出しました。私がそのあまりにも無防備な、それでいて堂々とした振る舞いに若干狼狽していると、今度は初野君が体育館到着と同時に何食わぬ顔をして飛び出しました。


これはマズイ。これでは私が逃げるのを恐れたと思われ私の、嫌だクダラナイと言いつつも最終的にあいつはやるんだよな、全くこのサイコ野郎が、という微妙な名誉に傷がつく。


話はそれますが、私は当時より刺激がほっし〜の❤という甘美な笑顔をもってしてシーブリーズを飲んだり、バナナマリファナやレタス阿片という怪しげなものの製造に真剣に取り組んだりしていて、そこそこの地位を彼らの中で確立していたんですよ。

このままではマズイ・・・


当時こういう日和見主義的な行動をすると「イモ」という呼称がつけられ、「全く熊襲の野郎は度胸がねえなあ、イモ野郎だぜ」っと圧倒的に腹が立つツラガマエで言ったり言われたりしていたんですねえ。


今でこそ「タンパク質は甘え、炭水化物こそ男のロマン」というマニュフェストを掲げる自分ですが、当時はイモというものをあからさまに軽蔑していたんですわ。


今思うと当時の「勇気」であったり「度胸」といったものは、財布の中身全てを何の考えなしに爆竹につぎ込んだり、ラーメン替え玉無料の場所でいかに麺を腹に詰め込める事が出来るかといった事に集約されている気がしないでもなく、私らは何を目指していたんだろうと不思議な気持ちになります。



そんな状況ですから私も勇気を振り絞って外に飛び出し、後ろを振り向かずに全速力で自転車にまたがって約束していた場所に行ったんですよ。


そこにいたのはまだ同じクラスの刈野くんと初野くんだけでしたが、約束時刻となると全ての人間が集まり、私達は追手が来たらヤバい!っとジェームスボンドのような事を言いながらスーパーへ肉を買いに出かけたんですね。


そのスーパーで買い物をして、ちょっと神経が興奮していたので休もうと皆でスーパーの駐車場でコーラかなんか飲みながら談笑していると刈谷くんがふっと喋らなくなりました。


そして刈谷君はブルブル震える携帯をすっと取り出し、私達に見せてきました。



着信:母



私と初野くん達はそれを見てゲラゲラ笑い、だからお前は何をしてもダメなんだ、お前に2回目の年男など来るはずがないと罵倒を繰り返していると今度は初野くんがふっと黙り携帯を取り出しました。



着信:父



全体の笑い声がふっと消え、恐る恐る私も携帯を見てみると・・・





不在着信;母8件



その後我々は家に帰ると待っているであろう地獄を振り払うように「イエス!キューカンバー!」っと叫びながら川に放りこまれたキュウリをに向かって突撃したのでした。