イトウ君の思いで

私は小中は市立の学校、高校は県立という何とも平和な人生を歩んできたんですがやはり誰でも彼でも人間ならOK!といった、まるでウナギの養殖場シラスウナギをぶち込むがごとく発想で運営されている私立の小学校や中学校には「お前、ホントに頭に障害ないのか!?」っと疑いたくなるような奴らが結構な数いたんですねえ。

中学校の頃は股間のブツはウマ並、頭はミドリムシ並っという恐怖のパーソナリティーをもつ、通称「トマホーク斎藤」と呼ばれていた(命名は私)男が快活にサッカーに勤しんでいました。

斎藤君はいつもはち切れんばかりの笑顔でもって担任や他のサッカー部員に殴られてばかりいたのですが、斎藤君の凄いところは一年間に5回ほど中学から家までの帰り道を忘れ、何と帰宅途中で路頭に迷うという、普通の感覚では全く考えられない行動をしていたところです。

いやはや、今考えると奴は中々凄い奴だなあ。

そんな中で自分が最も感動にうちふるえた事態は小学校までさかのぼります。

5年生くらいだったと思いますが、自分と同じクラスに「イトウ君」という非常に顔がキツネに似ている少年がいました。

イトウ君は確かそこそこ成績等はいい方なのですが、普通の人には彼が何を言っているのかサッパリ分からないという所に大きな問題点を抱えていました。

でもイトウ君というのは別に授業中いきなり奇声を発したり、奇行を起こすといった事は全くなく、何を考えているのか全く分からない目で時たま思いだしたようにこれまた意味の分からない言葉を静かに呟いるといった塩梅だったんですよ。

しかしまあ、残念な事に変わっている人間というのは虐められるもので、可哀想な事にイトウ君は度々悪ガキに蹴飛ばされ、罵詈雑言を浴びせられていました。

そんなイトウ君ですが、何かの遠足で私はイトウ君と一緒に二人で山の中を歩くという中々凄い機会に恵まれ、私は黙ってイトウ君とともに長い道のりを歩いていました。

するとイトウ君は突然「富士山頂竹馬レースの開催です。お〜っと○○さん(もう覚えていない)速い!ナントカカントカナントカ!」っと鋭い声で喋り出し、「富士山頂竹馬レース」という彼の頭の中にしか存在しないレースを実に鮮やかに実況し始めたんですよ。

あれには本当に驚いた。

今思うと多分イトウ君は凄く想像力豊かってか、根本的に一般人とは違う感覚でもって日常を歩んでいたんだなあと思います。

ふと今日外を見るとイトウ君に良く似た小学生の男の子が奇声を発しながら走り回っていたので何となく思いだしてしまいました。

今もどこかでイトウ君が「富士山頂竹馬レース」の続きを鋭く叫んでいるといいのになあ。